★ノドをいためないために★

 



 生徒からの相談でも、ヴォイスアクターエッグスQ&Aでも、「ノドをいためた」「ノドを壊した」という相談がひじょうに多い。
 発声における正確な医学知識は次のホームページを参考にしてもらうとして……

耳鼻科50音辞典
http://homepage1.nifty.com/jibiaka50/index.htm

京都大学 咽喉機能外科
http://www.hs.m.kyoto-u.ac.jp/fsl/index.html

 ここでは実際に俳優志望者がかかりやすい「具体的な症状」「対処と予防」などを説明する。

■「ノドをいためる」とは、どのような症状なのか?■

 音声の正体とは「声帯にて振動を加えられた呼気」である(音とは「空気の振動」と小学校の理科で習ったね? 糸電話の授業やったでしょ)
 私たちは声の調子が悪いと、すぐに「ノドをいためた」という。では、具体的にはどのような状態を言うのだろうか?

 まず、「声が荒れた」状態。これは声がかすれて音域が狭くなったり、咽喉の周辺が熱をもっているような感じだ。まだ、痛みはあまりない。
 原因の多くは、声の使いすぎであったり、風邪をひいていたりする場合になる。
 この程度であれば、発声を休んだり、休息を多くとれば完治することが多い。ほとんどの場合、無理をしなければ1日〜4日前後で元の声に戻る。

 荒れた状態で声を出し続けたりすると、次の状態、「ノドをいためた」状態へと悪化する。
 荒れた時と違い、声を出すとはっきりと痛みを感じる。ものを飲み込んでも、痛みを感じる場合が多い。音域は極めて狭くなり、日常会話さえもウィスパーとなることもある。
 こうなったら、急いで耳鼻咽喉科へ行った方がいい。自己治療は難しく、元の状態に戻るまで数週間〜2ヶ月前後かかる。しかし、医者にかかれば数日〜数週間で治る。

 いためたノドのまま、無理な発声を続けると、声が出なくなったり、音色が全く変わったり、咽喉周辺に激しい痛みを感じることがある。
 これが俗に言う「声を潰した」状態である。
 こうなると自己治療はほぼ不可能なので、一刻でも早く耳鼻咽喉科へと行くべきである。軽いケースでも数ヶ月〜半年、最悪のケースでは日常会話に支障が出る発声で、一生を過ごさなければならないこともある。

■どんな時に「ノドをいためる」のか?■

 まず、ここで演劇の発声におけるステップを簡単に説明しよう。
 演劇の発声は、腹式呼吸→ノドの開放→共鳴へと至る。
 ノドをいためた、またはノドをいためやすい人とは、このステップのどれかに問題がある場合が多い。

 腹式呼吸が不完全な場合(胸式呼吸で発声した場合)、胸から肩・首へと過度の緊張が出やすい。
 この咽喉周辺の筋肉の緊張によってノドが絞められた状態となり、発声時にノドをいためやすくなる。
 腹式呼吸が不完全な場合の理由の1位は、全身筋力の不足だ。
 特に大臀筋から背筋、下部腹筋が不足している場合、人は正常に立つことが辛くなる。そのため、骨盤を前に突き出し、首を前に突き出した異常な姿勢になりやすい。ちなみに10代〜20代にかけての若者の9割は、この異常な姿勢の持ち主である。
 この異常な姿勢は、腹式呼吸を妨げるばかりでなく、首・肩に緊張を生みやすいため、発声時にノドをいためやすい。
 また、精神的な理由で腹式呼吸が困難な人というのもいる。
 「一所懸命やろう」と気張りすぎて、リラクゼーションがうまくできず、全身筋力を効率よく使えないケースである。また、この精神的理由で緊張する人の場合は、腹式呼吸はできても、ノドをいためやすい。
 ちなみに首や肩のコリが激しい人も、ノドをいためやすい傾向にある。
 対処法は、まず、全身筋力を向上させ、正しい姿勢を保てるようになること。そして、発声時には、念入りなストレッチとウォーミングアップをして、リラクゼーションを大事にすることである。

 「ノドを開く」とは、咽喉内に音声をぶつけないようにすることである。俳優は、この状態を通常状態とすることによって、はじめて腹式呼吸による発声を活かしきれるようになる。(修業歴5年を超えていても、ノドを開いて発声できる志望者はホンの数%。志望者の9割以上は声潰し予備軍といっても過言ではない)
 「ノドが閉まっている状態=咽喉内に音声をぶつけている状態」で発声をすると、音声の刺激によって咽喉粘膜をいためてしまう。
 腹式呼吸はマスターしたが、ノドを開き切れぬままに共鳴へと至った場合、まず、間違いなくノドをいためる。共鳴によって倍増された空気の振動は、一瞬で粘膜を荒らすのだ。
 なお、ノドを開く指導はボイストレーナーの門を叩くのが、もっとも効率よく、かつ、現実的である。

 最悪のケースは、ノドを絞めてつくった声で発声して、ノドをいためてしまう場合だ。この場合、首・肩のみならず、咽喉周辺を意識的に絞めてしまっているために、かなり酷くいためてしまうこともある。
 ヒロイン声をやりたい、アニメっぽいキャンキャンしたカワイイ声を出したいという気持ちはわからないではないが、間違えた発声でつくった声はプロ現場ではつかえないのだから、即刻やめた方がいいと警告する。

■日頃から気をつけておくこと■

 大前提は「俳優は声を荒れさせない」。
 咽喉周辺の粘膜は、敏感なのに鈍感である。これはどういうことかといえば、生活リズムが悪かったり、ちょっとした体調の変化からノドは荒れるのだが、その荒れが自覚症状としては出にくいということである。そのため、ノドに痛みを感じるほどいためた場合には、本人が思っているより、かなりの重症になっているケースが多い。

 ノドをいためないコツのひとつは「自分の出している声の変化に敏感になること」。
 「あー」と長音で発声中、自分の声に「かすれ」が混じったり、濁るような音を感じた場合には発声を止める。その場で唾液を飲み込んでみて痛みなどを感じなければよいが、かすかであっても痛みを感じるようならば、水分補給やうがいなどをしよう。
 また、発声練習中、咽喉周辺の粘膜にチリチリとしたかすかな痛みが走ることもある。この場合は直ちに発声を中止し、水分補給または吸入器を使用してほしい。これでかなりノドの荒れは防げるし、荒れた場合の回復も早くなる。

*吸入器とは、超音波で水を霧状にする機械。ペットボトルなどから水分を補給するよりも、確実に咽喉粘膜周辺に行き渡る。吸入器に『ミチノ』などの薬剤を入れると、荒れてしまったノドの回復を早める効果も期待できる。吸入器にはハンディタイプ(五千円前後)と卓上タイプ(一万円前後)があり、大手家電量販店やデパートなどで入手可能。

 また、自分の体調を客観的に理解することも、ノドをいためないためには大事なこととなる。
 たとえば、むくんでいる時には、ノドをいためやすい。自分の顔を鏡で見て、むくんでいるなと思ったら、いつもよりもウォーミングアップとストレッチをたっぷりと行ってから発声練習をやろう。
 むくんでいる時というのは、血行が悪くなっているという「身体からのサイン」である。血行が悪くなっている状態は、粘膜を覆う粘液の量そのものが少なくなっているので、ノドをいためやすいのだ。
(同じ理由で、朝起き抜けの発声練習も厳禁。また、冬の、身体が寒さでこわばっている状態での発声練習も問題がある。とにもかくにも、発声練習の前には、必ずストレッチとウォーミングアップをして、全身の血行をよくしてからだ)
 なお、風邪をひいている時の発声練習などは言語道断。いや、そもそもプロ俳優を目指す者が風邪などをひいてはならない。無理をせずに、風邪を一刻でも早く治そう。
 寒い季節には、マフラーやタートルネックなどの衣服も、ノド周りの防護には有効だ。乾燥している日には、風邪をひいていなくてもマスクをするぐらいの自己防衛も大事である。マスクは、安くて、最も現実的なノド防衛だ。
 また、季節の関係なく「うがい」はおすすめである。特に外出から帰ってきた時には、手荒いとうがいをする習慣をつけたい。手荒いとうがいだけであっても、風邪予防にはかなり有効だし、ノドのコンディションを保つには最適な方法のひとつである。
(医師から甲状腺ホルモンの問題を指摘されている女性の場合、ヨード系うがい薬の使用は厳禁。薄い塩水などのうがいにしよう)

■声を何度も潰すと……■

 人間の声帯は、年齢と共に高音部が徐々に出なくなる。これは声帯周辺の粘膜が老化し、粘膜の水分保持が弱くなっていくから起きる現象だ。(だから、おばあちゃんやおじいちゃんの声はかすれているのだ)
 しかし、若くても、声帯が老化=高音が失われ、しゃがれている人もいる。それは何度もノドをいためた人である。
 何度も何度もノドをいためてしまうと、完全な回復は難しくなってしまうのだ。結果として、回復しても高音部が失われた声になってしまう。
 高音部が失われると、音声としての声は「輝き」がなくなる。声とは、いわば和音のようなもので、低音と中音と高音のアンサンブルによって美しい声がつくられていく。高音部とは、音声における艶や輝きに影響するのだ。
 つまり、俳優志望者のうち、特に声優の仕事を希望する場合は、声を潰してはいけない。
 また、一部には熱心さのあまり、とにかく無理矢理にでも大きな声を出そうと頑張りすぎる人もいるが、これはかえって逆効果。
 どんなに頑張っても、基礎体力がないうちは大きな声は出ない。無理矢理に声を出そうとしてノドをいためてしまうよりも、地道に身体訓練を行う方が発声は向上する。

■まとめ■

1.発声の前にはストレッチをしよう!
2.発声は正しい姿勢でやろう!(全身筋力を向上させよう!)
3.首と肩まわりのリラクゼーションを大事にしよう!
4.腹式呼吸と「ノドの開放」を心がけよう!
5.声に変調を感じた場合は無理をしない!
6.体調が優れない時には無理をしない!
7.ノドに痛みを感じたら、即、耳鼻咽喉科へ行こう!

以上